One Point China ワンポイント中国

第4回

「シナガワ」ではありません

上海に詳しい方ならご存知かと思いますが、桃江路と烏魯木斉路のクロスするところに、「品川」というレストランがあります。本格的な四川料理を堪能できるのはもちろん、シックでスタイリッシュな店構えも加わってハイセンスな人気店が立ち並ぶエリアの中でもひときわ目立ち、日本人はじめ外国からのお客さんで常ににぎわっている。電通の上司で出張のたびに一度は必ず立ち寄るという筋金入りのファンもいました。
 
ところで、なぜ「品川」かご存知でしょうか。こんなエピソードを聞いた。

 

以前万博チームで頻繁に現地を訪れていた頃、制作スタッフの数人がタクシーでそこへ向かおうとして、たまたま通訳が同乗していないときだった。「朴訥とした」という表現がまさにぴったりの、マジメな雰囲気の一人が、なかなかわかってくれない運転手に行き先を告げようと必死になった。「シナガ~ワ」、「シ~ナガワ」、「シ~ナ~ガワ~」とありったけの音のバリエーションをつけてチャレンジしていたそうです。もちろん同行の誰かがお店のカードや地図を見つけて渡すまでは、そんな奇異な声(失礼)が運転手に届くことがありませんでした。

 

そう、この「品川」は、「大崎」と「田町」の間のアレではありません。もちろん、品川さんという日本人がオーナーというわけでもありません。

 

中国では多くの地名(省、地方など)には、たった一文字で表す別名があるのです。古代にそこを本拠地としていた国名の名残だったりするのですが、たとえば、上海⇒「沪」、広東⇒「奥」、山東⇒「魯」といったように。一見決まった規則もなく日本人が一から暗記するにはかなり難易度の高いものに思えますが、ほとんどの中国人の場合は、そんなに超高等教育を受けていなくとも、「奥菜」⇒広東料理、「越劇」⇒寃江省紹興地方の戯曲などと、日常生活の中で無意識に身についている。

 

言ってみれば、フランス語の名詞に男性名詞と女性名詞に分かれていてもフランス人自身は難なく使い分けるのと一緒(違うか?)

 

この「品川」問題に戻ると、そう、「四川料理」(川)を、「味わう」(中国語では「品」という、ここでは動詞)を表した言葉だったのです。当然発音は全く似ても似つかないもの(Pin Chuan)ですから、運転手が途方にくれるのも不思議ありません。

 

「知らない天使より知っている悪魔」ということわざもあるようですが、この武勇伝の主人公は実に「知らない天使」かのように、かわいすぎる!と後からみんなで大笑いしたものですが、とんでもないところに連れて行かれなくてほんとによかったです。

 

このように、文化を知っているのと、全く知らないのとでは、場合によっては大きな違いを生みます。他国に比べて漢字に強い日本人だからこそ、中国に乗り込むときには思い込みや早合点をせずに、メジャーな言葉から少しずつでいいので、本質を学ぶというところからはじめてみたら如何でしょうか。後々楽になることが多いのです。


 

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